大阪の民放5局が文楽を応援「うめだ文楽」
今週の金曜日、2月6日に梅田で新しい文楽公演がスタートします。グランフロント大阪にあるナレッジシアターでの「うめだ文楽」。大夫も三味線も人形遣いも若手が登場、初心者にも分かりやすく文楽の魅力を伝えます。
「うめだ文楽」は大阪の民放テレビ局5局(毎日放送、朝日放送、テレビ大阪、関西テレビ、読売テレビ)が共催する文楽応援の事業。企画・制作・主催のすべてを5局合同で手がけるのは初の試みだそうです。
この企画の発端は橋下徹・大阪市長が火をつけた「文楽問題」でした。2011年12月に市長に就任した橋本氏は、翌年春、文楽協会への運営助成廃止を打ち出し、文楽は全国的な注目の的に。9月、民放5局の事業局長会合で「大阪のテレビ局も文楽のために何かできないか」と話題になり、それから2年余をかけて実現にこぎつけました。
技芸員(文楽を構成する三業=太夫、三味線、人形遣いの総称)のスケジュールは過密です。1月26日に国立文楽劇場の新春公演が終わったばかりですが、2月14日には東京・国立劇場での公演が始まります。その間隙をぬっての新たな挑戦。「うめだ文楽」のリーダー格、人形遣いの吉田幸助さん(48)は「在阪5局の応援をいただけるのは文楽にとってありがたいこと。乗るしかないと思いました。若手の力を合わせ、盛り上げていきたい」とプレス発表の場で力強く語りました。
この公演の目標は文楽ビギナーに楽しんでもらい、次は国立文楽劇場の本公演に足を向けてもらうこと。そのための工夫がちりばめられています。
文楽といえば江戸時代に道頓堀で発展、いまも日本橋の国立文楽劇場を本拠にする「ミナミの芸能」ですが、新たな観客層にも来て欲しいとあえてキタで開催することもその一つ。
全5回の公演には各回代わりで落語家桂南光さん、劇作家・演出家わかぎえふさんら文楽好きがゲストに登場、トークでも盛り上げます。公演のチラシは、赤い地に文楽の首(かしら)とテレビ各局のキャラクターをちりばめたしゃれたデザインでつくり、技芸員はテレビやラジオの番組にも出演してPRに励みました。
なんといっても一番話題になったのは、紋付姿の若手技芸員が笑顔で並ぶPR写真でしょう。本公演のチラシには技芸員の顔写真は載りませんし、若手の人形遣いは舞台では頭巾を被る左遣い、足遣いの役割ですから、観客に顔を見せることもないのです。
「固いイメージをもたれがちな文楽ですが、宣伝のやりかた一つで『見に行こうかな』という気持ちになる。さすがです」と人形遣いの吉田蓑紫郎さん(39)。太夫の豊竹希大夫さんは「文楽はPRの様式も決まっているので、こんな形は戸惑いもありますが、新鮮です」。三味線の鶴澤寛太郎さん(27)は「歌舞伎と違って文楽は得体の知れない人間がやっていると思われてきた。僕みたいに20代の人間がやっていることを知っていただけるだけでも意味がある」と笑わせました。
演目の「壺坂観音霊験記 沢市内より山の段」は、目の不自由な沢市と女房お里の純愛物語。登場するのは夫婦2人だけ、「大変に難しい演目です」(幸助さん)、「僕が本公演でやらせてもらうにはあと30年、40年の修業が必要」(寛太郎さん)と、若手には大きな挑戦の場となります。
文楽という芸は正攻法で見せ、PRやトークで初心者歓迎のメッセージを打ち出す……文楽への入り口を広げる試みは、テレビ局らしい「文楽応援」ですね。
3月19日〜22日には東京・六本木ヒルズで、檜造りの組み立て舞台で文楽を楽しむ「にっぽん文楽」の第1回公演もあります(主催=日本財団)。こちらは観劇中にお弁当を食べ、お酒を飲んでもOK。昔の芝居見物の自由な空気を再現します。
(佐藤千晴)
うめだ文楽
日程 2月6日〜8日
場所 ナレッジシアター(グランフロント大阪北館4階)
料金 4000円(開演1時間前から当日券を若干発売)
詳細はwebページ http://www.ktv.jp/event/bunraku/index.html
にっぽん文楽
webページ http://www.nipponbunraku.com
【プロフィール】
文楽とは 太夫が語る浄瑠璃、三味線、3人で遣う人形が一体となった芸能。人形浄瑠璃。江戸時代以来、様々な座(劇団)が盛衰を繰り返した後、幕末に植村文楽軒が大阪で建てた「文楽座」が中心的存在となり、「文楽」が人形浄瑠璃の代名詞となった。
文楽協会とは 昭和38年(1963年)設立の公益財団法人。文楽の経営は明治期に植村家から興行会社・松竹に移ったが、経営難から松竹も撤退。その後を受けて国・大阪府・大阪市・NHKの助成金で運営する文楽協会が生まれ、文楽の興行主となった。昭和59年(1984年)に大阪・日本橋に国立文楽劇場開場後は、本公演の主催は劇場に移った。文楽協会の現在の業務は文楽技芸員のマネジメント、地方公演や特別公演の主催、伝承事業など。